年末年始の株式市場でとるべき行動とは? 年末年始の株式市場でとるべき行動とは?

年末年始の株式市場でとるべき行動とは?

年末年始の相場のアノマリー

年末年始には、株式市場における重要な節目があります。証券取引所の年末の最終取引日の「大納会」と、新しい年の取引が始まる日の「大発会」です。大納会は、投資家にとっては年間の成績を振り返る機会であり、大発会はその年の市場動向を期待する最初の日となります。

大納会は、その年の最終取引日であり、通常は12月30日に行われます。土日と重なる場合は前営業日に変更されます。証券取引所で特別な式典が行われ、各界からゲストが招かれ手締めを行うことが恒例の行事になっています。
大発会は、その年の取引開始日であり、通常は1月4日です。こちらも土日と重なる場合は翌営業日に変更されます。この日は、株式市場が新たな年の取引を開始することを祝う式典が行われます。

年末年始には、この時期の株式市場を予測するのに参考になる、次のようなアノマリーが投資家の間では広く知られています。アノマリーとは、「理論的な根拠はないものの、経験的にしばしば見られる相場」のことです。


  • 「掉尾(とうび)の一振(いっしん)」
    株式が年末に向けて勢いを増し上昇することがあります。
    機関投資家などが、含み損を解消するために株式を売却した後、年末にかけて、「お化粧買い」で株価が上昇することなどが要因の一つと考えられます。お化粧買いとは、決算期末や月末に向けて、保有する株式の評価額を上げる目的で買い注文を入れることです。


  • 「ご祝儀相場」
    大納会や大発会に向けて株価が上昇するという見方があります。
    年末年始の祝賀ムードから投資家が積極的に株式を購入しやすく、結果として株価が上昇することが多いのです。


  • 「年末に買って年始に売る」
    年末に株式を購入し、年始のご祝儀ムードで売却することで利益を得る戦略で知られています。具体的には、大納会に株式を購入し、翌年の大発会に売却するという方法です。東京証券取引所が年末年始の休業に入るため、投資家がリスクを回避するために保有株を売却し、新年に再度購入する傾向があることから、株価が上昇しやすいとされています。


1994年から2023年の間で、年末の大納会の終値と年初の大発会の始値を見てみると、30年間で20回およそ66.7%の確率で大納会から大発会に向けて値上がりしています。

<1994年大納会から翌年の大発会に向けて上昇した年>


1994年大納会から翌年の大発会に向けて上昇した年

日経平均時系列データより 筆者作成

年末年始株式市場の注意点

年末年始の株式市場は、複数の投資のアノマリーにもあるように、さまざまな状況により投資行動も一様ではなく株価の変動が大きくなりやすいと見ることができます。

年末のボーナスを受け取った個人投資家が株式を購入することも多く、これも市場の上昇を促す要因の一つとなります。一方で、年末には利益確定のための売りも増えますし、年内に大きな利益を上げた投資家は、損失になっているものを損益通算しようと売却を行うことがあります。これにより株価が急激に下落することがあります。

また、年初は多くの機関投資家が新たな投資戦略やポートフォリオの見直しを行う時期でもあり、新しい年の運用方針により資金を投入することが多く、これが株価を押し上げる要因となります。
新年の大発会では、前年の好調な業績や新年への期待からも買いが入りやすく、株価の上昇につながる傾向にあります。

さらに、年末はクリスマス休暇などで市場の参加者が減少するため、取引量が少なくなり、株価の変動が大きくなることがあることも踏まえておきましょう。

大納会や大発会に向けて株価が上昇する「ご祝儀相場」は高い確率で起きています。一方、経済状況なども踏まえると、アノマリー通りにいかない例もあります。 過去の例を紹介しましょう。

●1989年の大納会と1990年の大発会
1989年の大納会は、日本の株式市場がバブルの絶頂に達した瞬間を示しており、1990年の大発会はその崩壊の始まりを告げるものでした。この二つの出来事は、日本経済の歴史において重要な転換点となり、その後の経済政策や市場の動向に大きな影響を与えました。

1989年12月29日、東京証券取引所の大納会では、日経平均株価は38,915円87銭という、それまでの史上最高値を記録しました。

しかし、1990年1月4日の大発会では、日経平均株価は30,165円52銭でスタートし、初日から大きく下落しました。この下落は、バブル崩壊の始まりを示すものとなり、株式市場はその後も長期にわたって低迷することになりました。

●2017年の大納会と2018年の大発会
2017年の大納会における日経平均株価の終値は、22,764円94銭で前日比での上昇はないものの年間通して約3,650円上昇しました。
2018年の大発会は、23,073円73銭の始値から432.60円上昇し、23,506円33銭で終えました。大納会の終値から742円の上昇です。
米国株高に加え、世界経済の回復、国内の企業収益の改善、アベノミクスの政策効果などを背景に先行きを期待する買いが集まった結果と見られていました。
この年は、戌(いぬ)年であったことから、相場格言は『戌笑う』とされ、縁起の良い年と期待されました。

●2023年の大納会と2024年の大発会
2023年の大納会では、日経平均株価は前日比75円安の33,464円17銭で取引を終えました。2023年の年間上昇幅は7,369円67銭で、1989年以来の高値水準で終えました。
2023年の大納会は、過去34年ぶりの高値で取引を締めくくり、投資家に明るい展望を示したと言えます。

2024年の大発会の株価は、一時、昨年末比で700円以上の下落を記録しました。最終的には33,288円29銭で取引を終えましたが、米国の株安と能登半島で発生した地震の影響を受け、前年の高値からの調整を反映したスタートとなりました。ただ、大発会以降、日経平均株価は次第に回復し上昇基調を見せました。外国人投資家の動向や、新NISA制度の開始、円安の進行がプラス要因として買い支えられ、株価は堅調に推移した格好です。

年末年始にするべきこと!保有株の持ち越しは?

年末年始の株式市場の特徴を踏まえ、年末年始に行っておくべきことを整理してみましょう。

●年末年始の市場環境を理解する

  • 流動性の低下
    年末の取引最終日や年始の取引開始日には、予期しない価格変動が発生することがあります。年末年始は、多くの投資家が休暇を取るため、取引量が減少し流動性が低下することがあります。流動性が低いと、株価が急激に変動するリスクが高まります。


  • 餅つき相場の影響を意識する
    年末年始には「餅つき相場」と呼ばれる株価が上下に激しく動く現象が見られます。
    年末のボーナスや新年の期待感から買い注文が増える一方で、利益確定のための売り注文も増えるためです。
    このような相場では、短期的な売買が活発になるため、株価の変動に一喜一憂せず冷静な判断が求められます。

●保有株の見直しと戦略
年末年始の市場環境を踏まえて、慎重に保有株の見直しと戦略を練るとよいでしょう。


  • 利益確定と損出し
    年末は、含み損を抱えている銘柄を売却し、税金対策を行う「損出し」が多くみられます。年末の株価上昇を見越して購入した銘柄については、年始の動向を見極めて早めに利益を確定してもよいでしょう。また、含み損を抱えている銘柄については、年内に手仕舞いを検討することも一つの戦略です。これにより、確定した利益に対する税金を軽減することができます。
    ただし、年明けの大発会では新年の祝いムードから株価が上昇しやすい傾向があるため、すべて利益確定するのではなく、そのまま持ち越す銘柄を選別することも必要です。


  • 確定申告の準備
    「一般口座」や「源泉徴収なしの特定口座」を利用している場合は、確定申告に向けた準備を行いましょう。
    特定口座(源泉徴収なし)の場合は証券会社より発行される「特定口座年間取引報告書」があればよく、一般口座の場合は「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」を作成する必要があります。


「源泉徴収ありの特定口座」の場合も、損失の繰越控除(※)を行う場合や、複数の金融機関の特定口座の損益と通算する場合には、確定申告が必要です。

※年間のトータルで株式取引で損失が出た場合、その年に控除しきれない金額は、確定申告を行うことで、翌年以降3年間にわたり繰り越すことができ、各年の上場株式等の譲渡益等から控除することができる。

<譲渡損失の繰越控除>

譲渡損失の繰越控除

1年間の投資成果を振り返る機会をつくる

年末は、投資目標や資産配分を再評価する絶好のタイミングです。
1年間の投資成果を振り返り、ポートフォリオの見直しを検討してはいかがでしょう。

●ポートフォリオの見直し
市場動向の変化によりポートフォリオのリバランスや、自身の状況変化に応じたリアロケーションを検討しましょう。


  • リバランス
    リバランスとは、保有資産の比率を当初の目標に戻すことです。
    市場の変動によって資産の価値が変わると、ポートフォリオ内の各資産の比率が当初の比率とずれてしまいます。このため、定期的にまたは条件が揃ったときに資産を売却したり購入したりして、元の比率に戻す必要があります。


  • リアロケーション
    自身の投資への考え方や家計状況が変わった場合には、資産配分を変更します。
    例えば、リスクを取り積極的に増やしていきたい考えが、やや安定的に運用したいという考えに変わった場合には、国内外の株式の比率を下げ、債券の比率を上げるなどの調整を行います。


●経済状況から見た投資対象の再検討
市場の動向や経済指標を確認し、投資対象を再検討し、また新NISA制度の活用や長期的な視点での投資戦略を考えることもおすすめです。
投資対象を再検討した結果、現状通りでよければそのまま継続し、必要であれば変更します。1年に一度保有資産を点検する習慣をつけることで、自身の資産状況を把握し目標に合わせて修正することができます。

修正が必要かどうかを判断するには、米国の経済動向や地政学的リスクなどに注意を払うことは重要です。例えば、紛争がさらに深刻化した場合に備えて、リスク資産を調整したり、米国経済への期待に偏り過ぎている場合には、投資対象の更なる分散を検討してみてもよいかもしれません。
年末の資産チェックは、単なる数字の確認ではなく、投資戦略全体を確認し、投資配分の調整が必要であれば実行するなど効果的な資産運用につなげましょう。

年末年始の投資は、特有のアノマリーや市場動向に影響を受けるため、流動性の低下や餅つき相場の理解、経済指標の確認などを考慮しつつ、冷静な判断が求められます。 アノマリーに過度に依存せず、市場環境の変化や経済指標の結果に注視していきましょう。

執筆者:村松祐子

村松祐子


ファイナンシャルプランナー(CFP® 1級FP技能士)。金融・証券インストラクター。 1987年より、大手証券会社において外国株式の東京証券取引所上場に際し、販売促進に携わる。資料作成、および、顧客向け株式セミナー、社内勉強会の運営に従事。1991年より富裕層向け資産運用コンサルティングに従事したのち、 株式調査部に転籍、経済・株式の調査を経験、機関投資家向け週間マーケットレポートの作成に携わる。資産運用の相談、経済・市場調査の経験を踏まえ、それらを総括したサービスを提供するFPへ転身。現在、資産運用・株式投資の個人レクチャー、セミナーのほか、ライフ&マネープラン相談を実施している。一人ひとりに合った資産形成の提案には定評があり、自立した個人投資家の育成にも力を入れている。

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