米国の雇用統計とは 米国の雇用統計とは

米国の雇用統計とは

雇用統計とはどのような指標? 何がわかる?

米国の雇用統計は、経済全体の健康状態を示す重要な経済指標です。
米国労働省労働統計局によって毎月発表され、なかでも「非農業部門雇用者数(Nonfarm Payrolls)」と「失業率(Unemployment Rate)」が注目されています。

雇用統計は、米国の労働市場や景気動向を示すだけでなく、その良し悪しが米国の金融政策の判断に影響することはご存じの方も多いでしょう。
物価の安定と雇用の拡大の2つのバランスを取りながら金利政策を運営するFRB(連邦準備制度理事会)は、雇用統計の結果を、金融政策を決定する際の重要な指標の一つとしています。
たとえば、雇用市場が強く、インフレ圧力が高まっている場合、FRBは金利を引き上げることで経済を冷やすことを検討します。米国は、インフレを抑制するため2022年3月に利上げを始め高金利を維持してきました。
反対に、失業率が高く、経済成長が停滞している場合、金利引下げや緩和政策が採用されます。
このように、FRBの金融政策の決定は雇用統計と密接に関連しています。

雇用者数の増減と失業率の結果から読みとれる動き

雇用統計の注目すべきポイントをみていきましょう。
雇用統計は、米国労働省労働統計局が、たとえば、11月最初の金曜日に10月の調査結果を公表するというように、毎月第1金曜日に、前月の調査結果について発表します。

●非農業部門雇用者数
Nonfarm PayrollsやNFPと呼ばれています。農業以外の仕事に就いている就業者数が前月に比べてどの程度増減したかを示す統計です。
事業者調査という約12万の企業・政府機関と約63万の事業所を対象に給与支払い帳簿を元に集計されます。
失業率よりも、このNFPのほうが市場の注目度は高く、為替や株式市場もNFPのほうに反応します。
NFPについては、金融機関や経済調査機関が事前に予想数値を公表するため、実績が予想を上回ったか、下回ったかが市場に大きな影響を与えます。
予想に対して実績が大きいほど市場への影響が大きくなります。

目安としては、NFPが継続的に前月比15万人以上増加した場合、失業率が低下する傾向があります。このような状況が続いた場合には、景気が良くなってきており経済が好調であることを示し、インフレのリスクが高まる可能性もあり、FRBが金融引締めを行うかもしれないという見方につながります。この見方が次第に先行きの金利上昇を予想したドル買いの動きになる可能性があります。

発表された結果に修正が入る際にも注目です。
結果が上方修正(または下方修正)されると、そのことが注目されて相場が動くことがあります。

<米国 雇用統計>


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●失業率
失業者が、労働力人口全体の中で何%かを示す指標です。毎月12日を含む1週間に約6万世帯を対象として行う一般家庭向けの調査「Current Population Survey」(CPS)です。

失業率(%)=失業者÷労働力人口(就業者と失業者を足した人口)×100

失業率の低下は一般的に経済の改善を表します。
しかし、失業者としてカウントされるのは、現在仕事がなく、過去4週間以内に求職活動を行った人々で、就職活動をしていない人は失業率に反映されないため、労働市場の実態を完全には反映しないこともあります。

<失業率 2008年1月~2024年9月>


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(出所)米国労働省の労働統計局(BLS)THE EMPLOYMENT SITUATION より 筆者作成

●雇用統計から労働市場が見え、金融政策の決定に
2024年8月の雇用統計は、非農業部門雇用者数が14.2万人増加したものの、市場予想の16.4万人を下回り、労働市場の減速が示されました。
この結果は、FRBが利下げを検討する際の指標となりました。

この後9月18日に開催された連邦公開市場委員会(FOMC)では、FRBが政策金利を5.25%から5.5%だったものから0.5%引き下げることを決定し、4.75%から5.0%に設定されました。
この利下げは、FRBが金融政策を「引締め」から「緩和」に転換するステップとなり、経済成長を支えるための措置とされています。
9月の雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比25.4万人増と予想を大幅に上回る結果になりました。雇用は減速傾向のなかでも持ちこたえる強さもみせているという見方ができるでしょうか。

過去、突然の出来事や急速な景気後退などによって世界規模で起きた経済危機時における雇用統計も振り返ってみましょう。

・リーマンショック
リーマンショックを引き金とした世界的な金融危機が起きた2008年から2009年は、米国では約670万人(※)の雇用が失われ、経済全体に深刻な影響を及ぼしました。2009年10月には失業率も10%に達しました。

(※)2008年1月から2009年12月までの雇用統計非農業部門雇用者数増減の合計(最終修正値)

・新型コロナウィルス感染症
コロナ禍の2020年4月には失業率が14.8%に達し、2,078万人(最終修正値)もの雇用者数が減少しました。

このように、経済危機時には雇用統計の数値が労働市場の弱さを如実に示しています。

金融市場は雇用統計でどう動く

米国の雇用統計は、金融市場に対して非常に強い影響をもっています。
統計が予想よりも強い結果となると、投資家は経済が過熱しつつあると判断し、FRBが金利を引き上げる可能性が高まると予想します。

●株式市場
強い雇用統計が予想されると、株式市場では金利上昇を織り込んだ売りが発生することがあります。一方で、雇用統計が予想を下回ると、経済の減速を示す可能性があり、金利引下げや金融緩和政策が期待され、株式市場にとっては好材料となることもあります。

●金利・債券市場
雇用統計の結果が強いと、インフレ期待が高まり、FRBが金利を引き上げる可能性が高まります。これにより、既存の債券の価値が下がり、債券利回りが上昇します。一方で、弱い雇用統計が発表されると、金利引下げが予想され、債券価格が上昇する傾向があります。

●為替市場
為替市場においても、米国の雇用統計は主要通貨に影響します。
強い雇用統計は、金利上昇が予測され、より高い金利を求めて米ドルを買う人が増え、ドル高になる傾向があります。反対に、弱い雇用統計が発表されると、米ドルは売られやすくなり、ドル安傾向になります。

このように雇用統計の結果は、株式、金利、債券や為替市場に影響を与えます。発表後の変動を見越して相場を張ろうと考える人もいるでしょう。
ただ、NFPは市場予想に反した数値が発表されることもしばしばあります。
中長期的な視点で運用を考えている個人投資家は、発表前後の短期的な変動に振り回されず、冷静に様子を見たほうがよいでしょう。

雇用統計の総合的な評価

雇用統計は、雇用状況が景気の動きに対して遅れて反応するため、現状とタイムラグが生じるので遅行指標とされています。

具体的には、景気が悪化しても企業はすぐに雇用を減らさず、業績が悪化した後にコスト削減の一環として雇用を縮小する傾向があります。このため、失業率や雇用者数の変化は、実際の経済状況を反映するまでに時間がかかることが多いといえます。
また、雇用者数の増減や失業率のほか、以下の指数も経済活動の側面を表しており、米国経済の状況を総合的に評価するために使用されます。

●労働参加率(Labor Force Participation Rate)
労働参加率は、労働力人口のうち実際に就業している、または求職活動をしている人々の割合を示します。この指標は、失業率とともに経済の健全性を評価する上で重要です。たとえば、失業率が低くても労働参加率が低い場合は、単純に職探しを諦めた人が増えている可能性があり、経済が完全に回復していないことを示す場合があります。

●平均時給の伸び(Average Hourly Earnings)
平均時給の伸びは、賃金の増加率を示し、インフレの予兆と見なされます。
賃金の上昇は消費者の所得が増えることで購買力を高め、経済成長を促進する要因になりますが、同時に物価上昇のリスクも伴います。
特にFRBは、この指標をインフレ管理する上で重要視しています。

●派遣社員(Temporary help services)
雇用者数の増減には派遣社員(Temporary help services)も含まれます。
景気が良いときは企業が人材を求め、一時的な雇用サービスを利用する傾向があります。不況から回復する際には、企業は正社員を雇用する前にまず派遣社員から雇用する傾向があるため、派遣社員の増減は労働市場の先行指数として今後の雇用情勢を予測する手掛かりになります。

これらの指標はそれぞれ独立しているわけではなく、相互に関連しています。たとえば、非農業部門雇用者数が増加し失業率が低下しても、平均時給が低下している場合は、経済全体の健康状態について慎重な見方が必要になります。

雇用統計は遅行指標であり、かつ月次の統計には変動があるため、6ヶ月以上の期間の動向を観察することをお勧めします。
2024年1月からの米・雇用統計を振り返ると、雇用は増加を示していますが、失業率の上昇や平均賃金の伸びの鈍化から減速感があると捉えられる一面もあります。
雇用統計の安定した増加と平均時給の緩やかな上昇が続くと、消費者の購買力が増加し、堅調な経済が持続すると見ることができます。
さらに今後数ヶ月間の雇用市場を観察し、景気回復や後退の方向性を確認していきましょう。

執筆者:村松祐子

村松祐子


ファイナンシャルプランナー(CFP® 1級FP技能士)。金融・証券インストラクター。
1987年より、大手証券会社において外国株式の東京証券取引所上場に際し、販売促進に携わる。資料作成、および、顧客向け株式セミナー、社内勉強会の運営に従事。1990年より富裕層向け資産運用コンサルティングに従事したのち、 株式調査部に転籍、経済・株式の調査を経験、機関投資家向け週間マーケットレポートの作成に携わる。資産運用の相談、経済・市場調査の経験を踏まえ、それらを総括したサービスを提供するFPへ転身。現在、資産運用・株式投資の個人レクチャー、セミナーのほか、ライフ&マネープラン相談を実施している。一人ひとりに合った資産形成の提案には定評があり、自立した個人投資家の育成にも力を入れている。『FPコスモス』代表。

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