執筆者:カブヨム編集部
1. 効率よく働くためにも「年収の壁」を理解する
「年収の壁」という言葉を聞いたことはありますか? 親の扶養下でアルバイトをしている学生や、配偶者控除を受けている人にとっては馴染みのある言葉かもしれません。
この年収の壁とは、特定の年収を超えると税金や社会保険料が発生するラインのことを指します。働く人々の収入や生活に大きな影響を与えるため、非常に重要な概念です。
年収の壁の具体的な金額や運用は、時に変更になることがあります。実際、2024年10月には、社会保険の適用拡大が予定されています。
扶養内で働いている方や配偶者控除を受ける方にとっては、こうした変化が気になるところでしょう。本コラムでは、具体的な年収の壁の一覧と、2024年10月以降の改正内容について詳しく解説します。
2. 年収の壁の一覧とケース別の注意
2024年9月時点で明示されている、代表的な年収の壁を一覧にしてみました。
年収額 | 発生する事柄 | 発生基準となる年収の考え方 | 備考 |
---|---|---|---|
103万円 | 所得税がかかり始めるライン(基礎控除48万円+給与所得控除55万円=103万円を超える部分にかかる)。 また、配偶者控除、扶養控除から外れるライン。 |
その年の1月~12月に受け取った収入総額 (基本給・手当・残業代・賞与など給与) ※非課税となる通勤手当などは除く |
2018年までは、基礎控除 38万円+給与所得控除65万円=103万円を超える部分にかかる |
106万円 | 社会保険の加入が必要になるライン。 | 所定内賃金が8.8万円以上 ※見込み残業代、通勤手当などは除く |
2016年10月から従業員501人以上、2022年10月から従業員101人以上が加入対象だったが、2024年10月より、従業員数51人以上100人までの企業に適用が拡大 |
130万円 | 配偶者の社会保険の扶養から外れるライン。 | 月収10.8万円以上となった時点と、それ以後の見込み年収 (基本給・手当・残業代・賞与・通勤手当などすべて) |
自分で国民健康保険もしくは会社の社会保険に加入する必要がある。 |
150万円 | 配偶者特別控除が満額適用される上限。 | その年の1月~12月に受け取った収入 (基本給・手当・残業代・賞与など給与) ※非課税となる通勤手当などは除く |
配偶者特別控除は、150万~201万6千円の範囲において、扶養している側の控除額が段階的に減少する。 |
201万6千円 | 配偶者特別控除の適用上限。 |
これらの壁は、それぞれ異なる税制や社会保険制度に関連しており、働く人々がどの程度の収入を得るかを決定する際に重要な指標となります。
一口に年収の壁で注意するポイントと言っても、状況や希望に応じて人それぞれです。一例ではありますが、注意するべき年収の壁をケース別に見ていきましょう。
・ケース①学生や未成年のアルバイト
所得税がかかり始める103万円の壁を意識する必要があります。また、親の扶養控除が外れるため、親の税金負担が増える可能性がある点にも注意が必要です。
なお、「学生納付特例」を活用して国民年金保険料の納付の猶予を希望している場合は、もうひとつ注意点があります。学生納付特例は、アルバイト収入のみで扶養親族がいない学生が受けることができるものですが、前年の年収が約194万円以下である必要があります。103万の壁を意識して超えないようにすれば必然的にこちらの要件もクリアするはずですが、親の扶養を外れてアルバイトしている方は注意しましょう。
・ケース②パートタイムの主婦(夫)
夫婦一方の扶養に入っているパートタイマーの主婦(夫)の場合、103万の壁のほかにも考慮すべき壁は多いです。社会保険料の適用条件に当てはまるかつ106万円を超える場合は、社会保険に加入する必要があります。
また、130万円を超えると健康保険の扶養から外れるため、自身で国民健康保険に入る必要が出てきます。
さらに、150万を超えると配偶者特別控除が満額で受け取れなくなり、徐々に控除額が減っていきます。201万6千円を超えると配偶者特別控除の適用対象外となりますので、家庭における税額負担が増える可能性があります。
ご家庭の状況や個人の考えにもよりますが、年収の壁を意識し、どの程度の収入を見込んで働くべきか、あらかめ考慮しておくことが重要です。
3. 2024年10月以降、社会保険はどう変わる?
社会保険料の要件は、これまでにも段階的に拡大されてきていました。
2024年10月の改定について、詳しく見ていきましょう。
・なぜ社会保険料の適用範囲が変わる?
社会保険料の適用範囲拡大には、いくつかの理由があります。
まず、非正規社員(パート・アルバイト)でも正社員と同様に社会保険料に加入しやすくなることで、病気や老後の保障が手厚くなることが期待できます。つまり、待遇の格差を縮小する狙いもあるでしょう。
また、少子高齢化社会等に伴う税負担の増加に対応するため、より多くの労働者が社会保険に加入することで、保険料の負担を広く分散させる狙いがあります。
いずれにしても多くの働く人々にとって影響がある、重要な変更と言えるでしょう。
・社会保険料が適用される条件とは
社会保険料の加入適用条件は、段階的に広がってきています。2016年10月からは従業員501人以上の企業、2022年10月からは従業員101人以上の企業が社会保険料の加入対象でした。
そしてこの度、2024年10月からは、社会保険の適用が従業員数51人以上の企業(特定適用事業所)で働くパート・アルバイトにも拡大されます。具体的には、所定の要件を満たした方が年収106万円を超えると社会保険に加入する必要があり、これにより健康保険や年金の保障が受けられるようになります。
(注:週の所定労働時間が30時間以上の方は、2024年10月よりも前から、社会保険料の加入義務があります)
パート・アルバイトの方が新たな適用条件の対象者になるためには、次の4つの要件をすべて満たすことが必要です。
【2024年10月以降の社会保険加入適用条件】
①週の所定労働時間が20時間を超える
②所定内賃金が月額8.8万円以上(※基本給及び諸手当。ただし残業代・賞与等は含まない)
③2ヶ月を超える雇用の見込みがある
④学生ではない
つまり、「106万の壁と一口に言っても、単純な年収の条件だけではなく、いろいろな条件を満たす必要がある」ということです。
所定内賃金が月額8.8万円未満の場合や、1週間など短期のみでの雇用の場合は、適用対象外となるため、社会保険料に加入したい場合は契約をよく確認しておくことが重要です。
また、そもそも「従業員」の定義自体がわからないと、ご自身のお勤め先が社会保険料改定の対象になるかどうか判断することができないでしょう。ここで定義されている「従業員」の数え方は、以下のとおりです。必ずしも雇用契約を結んでいるすべての方が従業員として数えられるわけではない点には注意が必要です。
4. 社会保険加入のメリット
「年収の壁」という言葉には、「それを超えてはいけない」というイメージが伴うかもしれません。もちろん、年収の壁を超えることで手取り額の減少に繋がるケースや、控除対象から外れるケースもありますので、知らなくて損をする…という可能性はあります。
ただし2024年10月の改正に関していえば、「社会保険への加入」をメリットとしてとらえることができるでしょう。具体的なメリットは以下の通りです。
・【社会保険に加入する具体的なメリット】
①年金が2階建てになる。
受給要件を満たした場合、老齢・障害・死亡の3つの保障を受けることができるようになります。
- 老齢年金:受給資格を満たした、65歳以上の方が受け取ることができる年金
- 障害年金:病気やけがなどで障害状態と認定された場合に受け取ることができる年金
- 遺族年金:被保険者が亡くなったときに、残された遺族が受け取ることができる年金
②医療保険がさらに充実する。
以下のような手当が充実するため、いざという時の安心感に繋がるでしょう。
- 傷病手当金:病休期間中、給与の2/3相当が支給される
- 出産手当金:育休期間中、給与の2/3が支給される
5. 可処分所得の範囲で、無理のない資産形成を
社会保険の加入や可処分所得の増減は、単に「今使えるお金」に関するだけでなく、いざという時や将来の資産形成にも直結する話題です。そのため一人一人が正しく理解しておくことが重要です。
また「資産形成のため、年金以外に投資も検討したいけれど、可処分所得が減ってあまり大きく投資できない」というケースもあるかもしれません。そのような場合、少額から始められる投資方法を検討するのも良いでしょう。
auカブコム証券では、将来を見越した資産形成の一助として、ポイントを活用位した投資や100円からできる積み立てなど、様々なサービスを展開しています。年収の壁を意識しながらも、投資による資産形成を考えるきっかけにもなれば幸いに思います。