年末の風物詩、来年の相場見通し
例年、年末年始になると、証券会社や運用会社から年明けの相場見通し、具体的には日経平均株価やTOPIXの水準の予想が語られるようになる。年末年始の風物詩である。
僕は(大方の読者諸兄もそうだと思うが)、こういうものをあまり素直に受け取ることはない。このような企画そのものが「色々あった今年も終わりますが、来年は良い年になると良いですね」というところから発していると思われてならないからだ。おおむね、原稿を書いているその時点の株価から10~20%上乗せした数字を予想水準とする、というのが「お約束」なのではないだろうか。
それでも、中には、日経平均株価が史上最高値突破か、とか、1万5,000円割れも、といった踏み込んだ予想を発表する方々がいるのも事実で、それはそれで僕も「読み物」として楽しませてもらっている。
そもそも、株価指数そのものの予想を、演繹的(えんえきてき)に、筋道立てて行うことはなかなか難しい。僕もかつて仕事上の必要に迫られて「TOPIXは米国のS&P500指数に比べて予想PERに割安感がある」などと口にしたり、何かに書いたりしたことはある。しかし、TOPIXの時価総額上位銘柄には予想PERが世界的に低い傾向がある完成車や大手銀行が多いし、それ以外も、特に内需系大型株については日本のGDP成長の鈍さと海外展開ポテンシャルの低さを考えればむしろPERは低いのが自然だ。そのため、ファンドを運用していた当時の僕は、果たしてどこまで水準が上がるべきなのか、という点について確信が持てないことが多かった。だから、「割安感がある」の「感」という情緒的な一文字に、その辺の思いを込めていたように記憶する。
2019年後半の「3大株価押し上げ材料」は賞味期限が近い
ここからは、僕個人が、2020年を前にして、現時点で思っていることを素直に書いていこう。
2019年の日本株は、前半調整、8月後半以降上昇に転じ、トータルでは上昇して終わろうとしている。年前半の調整は、米中貿易摩擦を契機とする企業業績の悪化が主因であることはほぼ異論がないところだろう。
そこから、8月後半以降の株価上昇をもたらした主な要因は、①各国中銀が変わらず金融緩和を行っていること、②ブレグジットや米中貿易摩擦問題に対する過度な懸念が後退したことで、年前半に株式市場から逃避した資金が再度流入した、③米中貿易摩擦問題がいったん落ち着く見通しがついたことで、中国経済の急減速懸念が後退した、の3点辺りだろう、と僕は捉えている。
上記認識が正しいとして、2020年に入ってからも、①~③の追い風が継続するかどうかを考えてみよう。
まず、①の金融緩和については、大筋で現状の大規模緩和政策が維持される、と考える。緩和に伴って生じた資金が株式市場へ流入することによって株価指数が下支えられるという、過去数年の構図は変わらないと想定している。ただ、かなり可能性は低いと思うが、世界的に金融政策が緩和縮小から引き締めへと進んでいった場合には、株式市場からの資金流出の動きを警戒する必要があるだろう。
次に、②の株式市場へのリスクオフ解消による資金回帰効果は、2020年にも余韻が残るとみるものの、かなりの部分は織り込み済みだろう。既に、アメリカのダウ平均やS&P500指数は最高値を更新中であるし、日本のTOPIXや日経平均株価も2018年の高値に迫る水準まで上昇しているからだ。
したがって、1月にも見込まれるブレグジットや米中貿易交渉の第一段階正式合意がスムーズに実現したとしても、さらに株価を押し上げる材料としては力不足なのではないだろうか。
最後に、③の中国経済の回復だ。経済統計というものは常に数か月遅れて出てくるものなので、実際に中国で事業を展開している企業の業績から考えてみたい。
電機や機械など、中国に進出している日本企業の7-9月期決算時の決算短信や決算説明会資料、あるいは各種新聞記事などを読む限り、売上や受注の落ち込みは止まりつつあるように見受けられる。この点は株価の動きとも整合的である。
もっとも、下げ止まった後、力強く回復している、というコメントはほとんどない、というのが僕の印象だ。足元10月、11月辺りまでの段階の中国経済、中国からの需要は、確かに底は打ったが、「V字」ではなく、「L字」型のトレンドを描いているのではないかと僕は推察している。
以上から、③に関連して今後起こりそうなことは、まずは1月下旬から本格化する10-12月決算の数字に投資家の注目が集まる。しかし、その結果は今後の業績拡大を確信させるほどの力強さには欠け、また今後についての企業サイドのコメントもせいぜい「春節(旧正月)明けの動向を確認したい」という程度にとどまる、というものだ。仮にこの通りになると、投資家のハシゴが外れる、とまではいかないにしても、株価上昇の材料にはなりそうにない。
このように考えていくと、①~③は、株価指数の押し上げ材料としては、既に織り込まれつつある、賞味期限は近い、ガス欠気味、ということだ。具体的な今後の動きとしては、2020年に入ってすぐの段階では年末にいったん買いポジションを手仕舞っていた向きの買いが入っても不思議ではないが、その後2月末から3月中旬くらいにかけて、株価指数は方向感を欠くもみ合い、もしくは若干調整気味となる、という形を想定するのが自然だと思う。
春先以降の株価指数の方向性を決めるのは、やはり中国だろう
僕が、自分の生活のため、普段考えていることは、せいぜいこの程度までのことである。しかし、これで終わりだと2020年の展望ではなくて1-3月の展望になってしまうので、最後に、一応、その先の展開を考えるうえで僕が考えるキーポイントを3つ挙げておきたい。結論だけ書けば、結局は中国経済次第だろう、と僕は考えている。
a)春節明けの中国需要に力強い回復はあるか
もっとも素直に株価を買いたくなる時、それは世界経済の成長期待が高まる時だ。もし2020年にそれがあるとすれば、それは中国経済の回復感が強まる場合だと考える。米国景気にさらなる加速を期待するのはどうかと思うし、欧州景気もブレグジットが実現しそうなことに加えて製造業は中国次第のところがあるため落ちなければラッキー、という程度。日本に期待するのも荷が重い。中国に頑張ってもらうしかないのである。
先の③でも触れたように、春節明け、電子部品や機械などの需要動向にどの程度の盛り上がりがあるか、それともないのか。僕自身が、最も気になっていることである。いったん需要が戻り方向にある、という認識が広まれば、株価指数の切り上がりを期待していいと思う。逆に弱いとなれば、調整色を強める展開となっても全く不思議ではない。
b)米中問題で新たな進展があるか
米中貿易交渉のさらなる進展を契機に、中国経済の先行き期待が高まる可能性もある。もっとも、交渉そのものは行われると思うが、どのようなペースで、どのようなタイミングで第二段階合意があるのかはなんともわからない。また、内容次第で株価の上げ材料にも下げ材料にもなりえる。僕としては、特に根拠はないが、2020年のどこかで、市場が交渉進展を囃して株価水準が切り上がっていくことがあるだろう、と期待している。
c)トランプ大統領の再選があるか
2020年は、11月に米国で大統領選挙が予定されている。機関投資家というものは、企業の経営者が代わるのは会社が変わると言って好感することが多い割に、なぜか大統領や首相が代わるのは不透明感が増すと言って嫌う傾向があるため、選挙戦の展開次第では株価が調整することも意識しておく必要があるだろう。また、選挙結果が、b)の米中貿易交渉にどのように影響するか、という点についても、有力候補者の名前が出そろった時点で良く検討しておく必要があると思う。
元ファンドマネージャーY
元大手投信会社のファンドマネージャー。
日本株に携わって20数年のベテラン。
団塊ジュニア世代。
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