株式アナリストの鈴木一之です。
新しい年が始まりました。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
「HOTな銘柄、COOLな銘柄」とは別に、新年の相場展望をお届けします。
新年の株式市場を展望する上で最大の懸念材料は、言うまでもなく「トランプ2.0」です。
世界中が警戒し大きな関心を持って見守っています。
ドナルド・トランプ氏が大統領に返り咲くことによって生じる懸念材料がふたつ。
同時に「トランプ2.0」の有無にかかわらず新年に期待される好材料も(少なくとも)4つはあると考えています。
トランプ2.0での懸念材料
(1)関税引き上げ
誰もが警戒しているように「トランプ2.0」における最大のカギはその政策です。
トランプ氏の政策は「関税引き上げ、減税の継続、移民規制の強化」の3つの影響が大きいと見られます。
その中でも「関税の引き上げ」が警戒されます。
トランプ氏は大統領に選出された直後、中国からの輸入品の大半に10%の追加関税をかけると発言しました。
同時にメキシコとカナダに対しても25%の関税を課すと新たに表明しています。
日本経済研究センターの試算によれば、中国に60%、それ以外の国・地域に10%の関税を課すと、報復措置として相手国からの関税引き上げがない場合でも、2025年の中国の経済成長率は3.4%まで低下します(2024年は4.7%)。
世界経済に与える影響もそれなりに大きいと見られます。
現在のところトランプ氏はEUに対して何も言及していませんが、2017年からの第1次トランプ政権(トランプ1.0)では、EUと米国との間でも貿易摩擦が問題となりました。
ラガルド・ECB総裁は12月の講演で「米国が保護主義を採ればユーロ圏は打撃を受ける」と述べています。
日本に対してトランプ氏はまだ関税引き上げを言及していませんが、これも当然のことながら日本も対象となる可能性を念頭に置くべきです。
その場合、日米貿易の量や重要度から見て自動車、エレクトロニクス、食品業界を中心とした対策が重要です。
(2)インフレ再燃
ふたつめの懸念材料はインフレの再燃です。
そしてこれもトランプ氏の採る政策によって大きく左右されます。
株式市場と債券市場における昨年の重大ニュースのひとつが、FRBによる「政策金利の引き下げ」です。
2021年後半から続いた米国の金融引き締めの転換が、昨年の歴史的な米国株の上昇をもたらしました。
金融政策の転換をもたらした最大の根拠がインフレの鎮静化です。
しかし「トランプ2.0」では再びインフレが高進しかねない状況が予想されています。
ここでの焦点は、トランプ政権における移民対策です。
トランプ氏が唱えている不法移民を強制的に本国に送還するという政策を導入した場合、コストプッシュによるインフレが再燃しかねず中小企業の経営が圧迫されます。
ことの良し悪しを脇に置くと、米国経済は不法移民の存在で支えられています。
民間ベースの試算では、農業、食肉加工処理、建設、家事・ビル・住居サービスなど、社会の根底を支えるこれらのエッセンシャル・ワーカーの2割が不法移民で構成されているとされます。
好況に沸く米国経済は不法移民による労働力の供給は必要悪であり、それがなければ経済がうまく回りません。
移民規制の強化が導入されると人手不足が深刻化し、それが賃金インフレを再燃させる懸念があります。
インフレ再燃が再び金利の上昇を招き、それが為替市場でのドル高となって他のマーケットを大きく動かす要因となりかねず注意を要します。
新年に期待される好材料
世の中の変動がますます激しくなっており、「トランプ2.0」の政策ばかりではなくそれ以外の懸念材料を数え上げればきりがありません。
しかし突き詰めれば、それらも上記の2点の心配におおむね絞られそうです。
それよりも注目し期待すべき好材料が数多く存在するのが現在の相場環境の特徴です。
企業からの変化を中心に4つの注目すべき要因を以下に挙げてみます。
なお年間の日経平均の予想としては、BPS(一株当たり純資産)の安定的な増加を前提として、PBR(株価純資産倍率)が昨年並みの1.35~1.55倍で推移するとすれば、2025年末には44,000円には上昇しうると予想しています(安値は37,500円程度でしょうか)。
(1)最新のテクノロジーを活かした生産性改革
企業サイドでは生産性改革が急ピッチで進められています。
そこではこれまでの単純な人員削減、事業部門の統廃合とは違って、生成AIを中心とした新しいテクノロジー、技術革新がふんだんに取り込まれています。
中でもAIを活用する動きが急速に浸透しています。
この数年間、世界は生成AIブームに沸いていますが、それが経済界、企業経営、実社会にも実装され始めてきました。「AIエージェント」の活躍する時代が始まろうとしています。
「AIエージェント」とは、具体的な指示がなくても仕事のサポートをする人工知能です。
生成AIは答えを得るのに人間による指示が必要でした。
AIエージェントは作業手順を自ら予測して動きます。
それに伴って企業は業務の効率化が急速に進められます。
遅々として進まなかった日本企業の利益率の改善、ROEの向上が従来以上に進行すると予想されます。
そこでは強者と弱者の差がますます開くという展開が起こりやすく、新たな成長企業が出現しやすくなる反面、追いついていけない企業も増えると考えられます。
ここでは配当利回りは高いのにROEが低く、それだけ合理化余地が大きいという観点から、 日本ゼオン(42054205)、 明治ホールディングス(22692269)、 淀川製鋼所(54515451) に注目しています。
(2)自動車(EV、電池、全個体電池、自動運転、生産拠点)
自動車業界は大きな分岐点に差しかかっています。
「百年に一度の技術革新」と言われた大波は、言葉で表現されるほどたやすいものではないことが判明しつつあります。
EVの普及に欠かせないバッテリーの高密度化、軽量化は予想に反して進まず、技術的なブレイクスルーが待ち望まれます。
航続距離が延びず、政府からの補助金も段階的に打ち切られるに及んでここ数年のEVブームは急激に冷え込みました。
ここでも勝者はごく一握りの企業に絞られ、国家レベルの後押しを受けた中国メーカーのシェア拡大に脅かされています。
それによって警戒された「自動車のコモディティ化」も始まっており、日本勢をはじめ先進国の自動車メーカーはいずれも目の前の収益と将来の投資との間で板ばさみになっています。
2024年暮れに突如として実現した日産自、三菱自、ホンダの3社による経営統合は、大きな業界再編の前兆に過ぎないように思えてきます。
しかしピンチはチャンス、変化は好機でもあります。
現在の大波を乗り越えれば次の飛躍期には大いに期待が持てます。
ここでは世界トップ集団であるトヨタグループ各社、 トヨタ自動車(7203 7203)、 デンソー(6902 6902)、 アイシン(7259 7259)、 愛三工業(7283 7283)、 愛知製鋼(5482 5482)、 東海理化(6995 6995) に注目しています。
(3)企業買収、MBO、アクティビストの動きが活発化
昨年、企業サイドでは資本政策の変化が目立った1年でもありました。
上場企業が相次いでMBOを通じて非上場化し、あるいはTOBによって上場子会社を本体に取り込む動きが活発化しました。
企業買収という点では、
セブン&アイホールディングス(
3382
3382)に対して海外大手コンビニ会社が買収提案を仕掛けた事案が話題を集めました。
年末には
ニデック(6594
6594)が
牧野フライス製作所(6135
6135)
に対して「同意なきTOB」を提示したケースも注目されます。
どちらも現在進行中です。
買収巧者として知られるニデックが、株価が特段に下落しているわけでもない牧野フライス製作所に対して、現在の価格に高いプレミアムを付けてまで「同意なき買収」を行う動きひとつを見ても、日本の企業(の一部)はいかに割安かという現実が浮かび上がります。
日本にもいよいよ「大買収時代」が到来したという見方もできますが、背景には2023年に経済産業省が発表した「企業買収における行動指針」の存在が大きいと見られます。
この行動指針によって、企業は真摯な買収提案がなされた場合、それに対して真摯に検討しなくてはなりません。
従来のように外部からの提案を無視したり、安易に門前払いすることはできなくなりました。
経済産業省による指針が発表されて以来、「同意なき買収」を含めた資本移動の事案が急増しているように見られます。
同時に海外勢を中心にアクティビストの動きも活発化しています。
この流れも始まったばかりです。
この視点からは、借入金が相対的に小さく、解散価値から見て割安な NOK(7240 7240)、 日本触媒(4114 4114)、 丸一鋼管(5463 5463)、 日本パーカライジング(4095 4095)、 ノリタケ(5331 5331) に注目しています。
(4)NISA
昨年1月からスタートした「新NISA」、すなわちNISAによって個人投資家の投資行動は一変しました。
主な証券会社のNISA専用口座を通じた個人の株式購入額は11.9兆円まで拡大しました。
以前の「古いNISA」と比べて4倍に膨らんでいます。
これまで個人投資家の動きは、株価が急落すると買いが増えて、株価が上昇すると売りが膨らむという、株式相場の方向性に大きく依存していた傾向があります。
それが相場の変動とは関係なく、安定して資金が株式市場に流入するようになりました。
これはNISAを通じた運用スタンスが「積み立て型」の投資信託を経由している点が大きいと見られます。
岸田政府時代の2022年11月に「資産所得倍増プラン」が策定され、これが大きなエポックメイキングとなりました。
そこでの目標は5年でNISA口座数を1700万から3400万へ、買い付け金額を28兆円から56兆円へ倍増させる計画でした。
制度スタート1年目の買い付け額はほぼ12兆円に達しており、目標を上回るペースになっています。
昨年8月には日本の株式市場が1日で▲4000円以上も急落する場面がありました。
このような場面でも投信経由での買いが多い分、個人投資家はひるむことなく安定的な買い勢力として存在感を示しています。
NISAを経由した個人投資家の動きは今年も大きな注目点となりそうです。
非課税をフル活用するためNISA投資では利回りの高い銘柄が好まれます。
ここでは増配意向の強い高利回り銘柄として、
サンドラッグ(9989
9989)、
エレコム(6750
6750)、
コムシスHD(1721
1721)、
ライト工業(1926
1926)、
アイカ工業(4206
4206)
に注目しています。
以上