年末年始相場の臨み方~為替(FX)・株価指数~
為替について
2019年1月3日、ドル円は108円台後半で推移していましたが、午前7時を少し過ぎた頃から急激に売られ、一瞬のうちに4円程の下落になったことは皆様の記憶にも新しいのではないかと思います。
これは多くの条件が重なったことで大きな動きになったのだと思います。
・お正月という、日本のプレーヤーが最も参加を控える休日であったこと。しかも午前7時頃という、市場の日付が変更される最も市場が薄いタイミングであったこと。
・トランプ大統領や何人かの市場関係者の警告にも関わらず、2018年12月19日にFOMCが0.25%利上げを「強行」し、米国株の急落を招いた後のタイミングであったこと。
・市場の状況から言うと、107.50円以下には様々なバリア系オプションが点在し、それに絡むドル円の売りが大量に発動されたこと。それがきっかけとなり、豪ドル円やトルコリラ円等、ドル円以外の通貨ペアで「強制ストップロス」が発動されてしまったこと、等々が挙げられます。
バリア系のオプションに関しては、少し専門的になりますので説明は割愛しますが、こうしたオプションがトリガーすることで数千億円から1兆円程度のドル円の売りが一度に出てきたと推測されています。
しかしながら、最も大きかったのは米金融当局の利上げにより、米国株が不安定な状況となり、その不安心理が伝播したことが大きかったのではないでしょうか。
米国株は実質的に世界最大の資産市場ですが、近年市場の連動性が高まっていることで他のマーケットに及ぼす影響が極めて高くなっています。つまりグローバル市場全体がリスク選好かどうかを占うバロメーターと言えます。
現状、米中貿易協議が曲がりなりにも第1段階の署名に至り、グローバル景気が緩やかに回復に向かう見通しが高まっています。また、米金融当局は今年3回の利下げを行いましたが、先日のFOMCでは来年以降も利上げはしないという見方が示されました。また何より、大統領選挙を控えトランプ大統領は米国株が下落するような政策を採るはずがないと見る奇妙な安心感があり、それが現在の米国株高につながっています。
現在、為替市場は過去に経験したことがないぐらいに安定しています。今年のドル円レンジはわずか8円程でしたが、この10月の半ば以降はわずか2円程度のレンジに収まっています。この背景にあるのは、米国株の安定です。
今後も緩和志向の米金融政策、地政学的リスクを極力避け株価の守護神となっているトランプ政策を背景に、何か不測の事態が起こらない限り、金融市場が昨年の様に動乱するようには見えません。年初の「フラッシュ・クラッシュ」のようなことは、絶対に起こらないとは言えませんが、目先は高い可能性で安定した相場環境が続くのではないでしょうか。年末年始を意識して特別リスクを落とすべき状況には見えません。
波乱があるとすれば、このところ動きの激しい英ポンドがきっかけになるかもしれません。12月12日の総選挙後、英ポンド円は147.95円の最高値を示現しましたが、「噂で買って、事実で売る」動きから、現状141円台へと軟化しており、状況に次第ではさらなる円高リスクがあります。このポンド円の動きがドル円の軟化へとつながる可能性はあるでしょう。
またドル円市場は1月に下げやすい傾向がありますが、特にこの数年は1月に少し円高となっています。2019年はフラッシュ・クラッシュ後の買い戻しでむしろ円安でしたが、2018年は3円50銭ほど円高、2017年も3円強、2016年はマイナス金利導入で瞬間円安に向かったのでむしろ僅かに円安となりましたが、その後の円高相場のスタート地点となりました。
今年はどうかと言うと、年明け後少しだけ円高に推移する可能性は小さくないと思いますが、大きな円高方向への動きは考え難いと想定しております。現状の109円台半ばから108円前後に緩む程度の、小さなリスクでしょう。他のクロス円でも同様で、僅かな円高はありえますが、対英ポンドを除いて、大きな円高リスクはないと想定しております。
ただ、こうした動かない市場ですが、エネルギーは溜まっているはずです。2020年は、どこかの時点で、大きな動きが起こる可能性は十分あるでしょう。しかし、その方向がどうなるのかは、現状分かりかねると考えます。
株価について
このところの日本株は堅調です。私は株の専門家ではありませんから、株価の動きについて深く言及しませんが、為替編でも述べたように、このところの日本株の好調は、おそらく米国株の堅調が背景にあると思います。
私の周囲のヘッジファンドプレーヤーは、日本株は米国株とドル円という2つの変数で決まると単純に考えている人が多く、「企業業績が悪化している」「日本経済が小さなリセッションに突入しようとしている」からと言って、日本株を売りと見ている人はいません。
この年末年始も、米国株に波乱が起こるようには見えないので、敢えて日本株のリスクを落とすと言う動きも聞こえてきません。むしろ、既にかなりアンダーウェイトになっているので、減らしようがない感じです。
しかし、だからと言ってオーバーウェイトにする人もいません。インデック等を利用して、米株ロング/日本株ショートのポジションも頑なにキープしているプレーヤーも多い。日本株は中長期的に難しいとの認識は残ったままです。
結論としては、年末年始リスクはほとんどないと見られています。大きなロングは持っていませんが、現在のロングは維持する方針の模様です。しかし、その一方でインデックス等を使った米株ロング/日本株ショートポジションも維持されています。
リスクがあるとすれば、地政学的リスクが顕在化するときでしょうか。香港の状況は、懸念ではありますが、株価を揺るがす影響力は限定的でしょう。むしろ、現状見えない、織り込まれてないリスクが重要でしょうか。大統領選挙を前に動けないトランプ大統領を揺さぶる意味で、北朝鮮が何らかのミサイル実験をした場合等、こうした市場に織り込まれていない事象が起こると、現状のマーケットは危ういと思われますが、敢えてそのことを想定してリスクを落とす状況ではないでしょう。
志摩力男氏 プロフィール
慶應義塾大学経済学部卒 ゴールドマン・サックス証券会社、ドイツ証券等、大手金融機関にてプロップトレーダー(自己勘定トレーダー)を歴任、その後香港にてマクロヘッジファンドマネージャー。世界各地のヘッジファンドや有力トレーダーと交流があり、現在も現役トレーダーとして活躍。
クリスマスや年末年始の時期は時間帯によっては流動性が極端に低下する傾向があり、スプレッドが拡大したり、一時的にレート配信が困難になる可能性がございます。お客様におかれましては、以下を必ずご確認いただき、予想外の相場変動による強制決済などに備え、保有建玉や資金の管理に十分ご注意ください。